相続 × 不動産登記 | お子様世代のための準備ガイド
所有不動産記録証明制度で
相続の「見えない不動産」をなくす
全国の不動産を一覧で証明できる新制度と、相続登記のオンライン申請・デジタル情報の活用術。
「どこに何があるのか分からない」を、相続が始まる前に解消するための実務ガイドです。
相続で引き継ぐ不動産がどれくらいあるのか、場所や名義がはっきりせず不安を感じていませんか。
「実家のほかにも田舎の土地があるらしい」「亡くなった祖父の名義のままの山林があるかもしれない」——こうしたご相談は、相続の現場で本当によく耳にします。
これからの相続では、所有不動産記録証明制度やデジタル情報の活用が、手続きの負担を軽減し、将来のトラブルを防ぐうえで大きな助けになります。
本記事では、お子様世代が相続前から知っておきたい新しい制度のしくみと、オンライン申請などを使って相続登記や名義整理を進める際のポイントを、やさしく整理して解説します。
あわせて、相続登記の義務化や住所等変更登記の義務化といった期限のあるルール、所有不動産の「見える化」によって使っていない土地や建物を確認し、土地利用の最適化につなげる考え方も取り上げます。
親世代と話し合いを始める前の準備として、ぜひ最後まで読み進めてみてください。

この記事でわかること
- 所有不動産記録証明制度の全体像と、従来の登記事項証明書との違い
- 所有不動産記録証明書の請求方法・必要書類・手数料(1,470円〜1,600円)と注意点
- 相続登記の義務化(3年ルール)と、住所等変更登記の義務化・スマート変更登記の要点
- 登記・供託オンライン申請システムや法定相続情報一覧図など、負担を減らすデジタル活用術
- 遊休地・空き家の見える化から、活用・売却・相続土地国庫帰属制度までの選び方
- 親世代と今日から始められる、相続と不動産管理のチェックリスト
相続前に知る所有不動産記録証明制度の基本
所有不動産記録証明制度とは何か
所有不動産記録証明制度は、不動産登記法の改正により創設された新しい証明制度で、令和8年2月2日から運用が始まりました。
全国の登記情報から特定の人名義の不動産を一覧で確認できるようにすることで、相続の際に不動産の見落としを防ぐことが目的とされています。
これまで登記簿は土地や建物といった不動産ごとに作られており、「ある人が全国にどんな不動産を持っているか」をまとめて調べる公的な仕組みは存在しませんでした。
そのため相続が始まると、ご家族は固定資産税の納税通知書や権利証、通帳の記録などを手がかりに、手探りで不動産を探し出す必要があったのです。
所有不動産記録証明制度は、この「相続財産の調査」という入り口のハードルを大きく下げるための制度と言えます。
背景にある「所有者不明土地」問題
背景には、登記簿を見ても所有者が分からない、いわゆる所有者不明土地が増加し、土地の利用や公共事業、防災対策の支障となっている問題があります。
政府広報オンラインが紹介する国土交通省の令和6年調査によれば、不動産登記簿だけでは所有者の所在が判明しない土地は全国の土地の約23%にのぼり、その面積を合計すると九州の面積より広いとされています。
さらに、その発生原因の約63%が「相続の際に名義変更(相続登記)が行われないこと」、約29%が「転居した際に住所変更の登記が行われないこと」であると報告されています。
つまり、所有者不明土地の9割超は、登記という「手続きの先送り」から生まれているということです。
こうした問題を解消するための柱の1つとして、相続登記の申請義務化と併せて導入されたのが、この所有不動産記録証明制度です。
相続登記がされないまま世代交代が繰り返されると、相続人の範囲がねずみ算式に広がり、合意形成が難しくなります。
実際に、明治生まれの方の名義のまま放置され、相続人が数十人規模にまで膨らんでしまった土地の事例も報告されています。
その結果、公共事業や再開発、災害復旧などに時間と費用がかかり、地域全体が不利益を被ることになります。
このため、民法と不動産登記法の改正により、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務が、令和6年4月1日に始まりました。
所有不動産記録証明制度は、こうした相続登記義務化の実効性を高め、相続人が不動産の全体像をつかみやすくするための仕組みなのです。
請求できるのは「本人」と「相続人」だけ
この制度では、不動産の所有者本人だけでなく、その相続人となる方など、一定の利害関係を持つ人が請求できる仕組みが整えられています。
具体的には、所有権の登記名義人本人(法人を含みます)、その相続人その他の一般承継人、そしてこれらの方から委任を受けた代理人が請求できます。
裏を返せば、第三者が自由に他人の資産を調べられる制度ではないため、プライバシー面の心配は不要です。
被相続人がどこにどのような不動産を持っていたのか分からない場合でも、所有不動産記録証明書を取得することで、登記簿上確認できる不動産を一括して洗い出すことができます。
相続を控えたお子様世代にとっては、遺産全体の把握を早い段階で進めるための、重要な入り口となる制度です。
従来の登記事項証明書とどう違うのか
従来、不動産の内容を確認するには、不動産ごとに登記事項証明書を取得し、個別に内容を読み解く必要がありました。
しかも、その不動産の所在地が分かっていなければ請求すらできないため、「持っているかどうか分からない土地」を見つける手段としては力不足でした。
この方法では、不動産の数が多い場合に費用も時間もかかり、どこに何があるのか一覧で整理する作業が大きな負担となっていました。
所有不動産記録証明制度では、特定の人名義の不動産を一覧形式で把握できるため、相続財産の整理や遺産分割の準備を、より効率的に進めることが期待されています。
相続開始前に取得しておけば、親世代と一緒に所有状況を確認し、将来の利用方針や処分の検討を進める基礎資料としても活用しやすくなります。
| 項目 | 従来の登記事項証明 | 所有不動産記録証明書 |
|---|---|---|
| 確認できる範囲 | 特定不動産ごとの情報 | 特定人名義の不動産一覧 |
| 取得の手間 | 物件単位で個別請求 | 一度の請求で広範囲 |
| 所在地が不明な時 | そもそも請求できない | 氏名・住所から検索可能 |
| 相続時の活用 | 見落としリスクが残る | 全体像把握で漏れ防止 |
所有不動産記録証明書の請求方法・手数料・注意点
どこで、どうやって請求するのか
所有不動産記録証明書は、全国どの法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)でも請求することができます。
不動産の所在地を管轄する法務局に出向く必要はないため、お住まいの近くの窓口で手続きを完結できるのが大きな利点です。
請求方法は、窓口への持参、郵送による書面請求、そして登記・供託オンライン申請システムを利用したオンライン請求の3通りが用意されています。
遠方にお住まいのお子様世代にとっては、オンライン請求と郵送交付を組み合わせることで、移動の負担をほとんどかけずに証明書を取り寄せられる点が心強いところです。
請求に必要なもの
請求の際には、誰の名義の不動産を検索するのかを特定するため、氏名・住所などの検索条件を指定します。
相続人が被相続人名義の不動産を調べる場合には、相続人であることを示す戸籍関係書類や、請求者本人の本人確認書類が必要になります。
法定相続情報一覧図の写しを取得しておくと、戸籍の束を何度も提出する手間を省ける場面が多く、相続手続き全体を通じて役立ちます。
また、本人が生前に自分名義の不動産を確認する場合には、本人確認書類のみで足りるため、親世代がお元気なうちに一度取得しておく方法もおすすめです。
代理人による請求も可能ですので、遠方の方や体調に不安のある方は、司法書士などの専門家に依頼するという選択肢もあります。
手数料は「検索条件1件・1通ごと」に加算
手数料は、検索条件1件につき1通あたりで計算され、請求方法によって金額が異なります。
書面請求(収入印紙で納付)は1,600円、オンライン請求で郵送交付を選ぶ場合は1,500円、オンライン請求で窓口交付を選ぶ場合は1,470円とされています。
ここで注意したいのは、検索条件の「件数」ごとに手数料が加算される点です。
たとえば、旧姓と現姓、転居前と転居後の住所というように検索条件を4件指定して1通請求すると、書面請求の場合は4件×1通×1,600円=6,400円となります。
親世代が結婚や転居を何度も経験している場合には、条件の指定の仕方によって費用が大きく変わるため、事前の整理が費用の節約に直結します。
| 請求方法 | 手数料(検索条件1件・1通) | 向いているケース |
|---|---|---|
| 書面請求(窓口・郵送) | 1,600円(収入印紙) | その場で相談しながら請求したい |
| オンライン請求+郵送交付 | 1,500円 | 遠方在住・来庁が難しい |
| オンライン請求+窓口交付 | 1,470円 | 費用を抑えつつ早く受け取りたい |
証明書に載らない不動産があることに注意
この証明書は、請求書に記載された検索条件の氏名・住所をもとに、登記簿の記録を機械的に検索して作成されます。
そのため、結婚により姓が変わっている場合や、引っ越し後に住所変更登記をしていない場合には、条件が一致せず抽出されないことがあります。
また、登記そのものがされていない未登記建物、表題部にしか記録がない不動産、共有持分の記載方法によっては、期待どおりに把握できないケースもあります。
該当する不動産がない場合には「該当なし」という趣旨の証明書が交付されますが、それは「不動産を一切持っていない」ことの証明ではない点に留意してください。
だからこそ、固定資産税の課税明細書や市区町村で取得できる名寄帳(固定資産課税台帳の一覧)とあわせて確認し、複数の資料でクロスチェックすることが実務上のポイントになります。
- 親世代の旧姓・旧住所を事前に洗い出し、検索条件を絞り込んでおく
- 固定資産税の納税通知書・課税明細書を年度分そろえておく
- 市区町村ごとの名寄帳を取得し、非課税の山林・私道の有無も確認する
- 権利証(登記済証)や登記識別情報通知の保管場所を共有しておく
- 証明書の内容と実際の利用状況が合っているかを現地・地図情報で確認する
相続手続きの負担を軽減するデジタル情報活用術
登記手続きは「窓口に行くもの」から「自宅からできるもの」へ
相続に伴う不動産の手続きでは、これまでは登記所の窓口に出向き、紙の申請書や添付書類をそろえる必要があり、大きな時間的・金銭的負担となっていました。
平日の日中に何度も法務局へ足を運ぶことは、お仕事や子育てをされているお子様世代にとって決して簡単ではありません。
しかし現在は、登記・供託オンライン申請システムを通じて、自宅などからインターネット経由で相続登記や住所変更登記、証明書の交付請求ができる仕組みが整備されています。
オンライン申請では、「申請用総合ソフト」や「かんたん証明書請求」を用いて申請情報を作成し、電子納付も利用できるため、郵送費や窓口での待ち時間を抑えやすくなります。
特に登記事項証明書の請求は、オンラインのほうが手数料も安く設定されているため、複数の不動産を調べる場合ほど差が積み上がります。

相続手続き全体を軽くする3つのデジタル制度
相続の場面で覚えておきたいのが、法定相続情報証明制度、戸籍謄本等の広域交付、そして各種オンライン申請の3つです。
法定相続情報証明制度は、戸籍一式をもとに相続関係を1枚の図(法定相続情報一覧図)にまとめ、法務局が無料で認証・交付してくれる制度です。
この写しがあれば、金融機関の口座解約、証券口座の名義変更、相続登記、相続税の申告など、さまざまな窓口で戸籍の束を提出し直す必要がなくなります。
また、令和6年3月1日から始まった戸籍謄本等の広域交付により、本籍地が遠方にあっても、最寄りの市区町村の窓口でまとめて戸籍謄本等を請求できるようになりました。
「戸籍を集めるだけで数か月かかった」という従来の負担は、これらの制度によって大きく軽くなっています。
住所変更登記は添付書類を省略できる場合がある
また、住所変更登記については、住民票コードを提供することで、市区町村が管理する住民基本台帳ネットワーク上の情報を前提とし、住所変更の事実を証する書類の添付を省略できる仕組みが設けられています。
これにより、住民票の写しや戸籍の附票の写しをその都度取り寄せる負担が軽くなり、引っ越し後の登記名義人の住所変更登記をオンラインで完結しやすくなります。
住所情報が適切に更新されることで、その後の相続登記や所有不動産記録証明書の請求の際にも、名寄せの精度が高まり、相続人側の確認作業の負担軽減にもつながります。
逆に、住所が古いまま放置されていると、せっかく所有不動産記録証明書を請求しても、その不動産が一覧から漏れてしまう可能性があります。
「登記簿上の住所を最新にしておくこと」は、将来の相続人への何よりの贈り物だとお考えください。
デジタル情報を起点にした相続手続きの流れ
所有不動産記録証明制度の開始により、相続人は被相続人名義の不動産を一覧化した所有不動産記録証明書を請求できるようになりました。
まずはこの証明書で全国の不動産を把握し、その一覧をもとに、相続登記が済んでいない不動産や共有状態の不動産を確認します。
次に、遺産分割協議の内容を踏まえて、オンライン申請を活用しながら順次名義整理を進める、という流れが基本になります。
このように、デジタル情報を出発点として相続登記や名義変更を計画的に進めることで、相続開始後に慌てることなく、手続きの抜け漏れや長期未了を防ぎやすくなります。
なお、手数料や運用の詳細は改定されることがありますので、実際に手続きを進める際は法務省・法務局の最新の案内を確認しながら進めると安心です。
| 活用できるデジタル制度 | 主な役割 | 相続時のメリット |
|---|---|---|
| 登記・供託オンライン申請システム | 不動産登記のオンライン申請 | 窓口訪問減少と時間短縮 |
| 法定相続情報証明制度 | 相続関係を一覧図で証明 | 戸籍の束の再提出が不要に |
| 戸籍謄本等の広域交付 | 最寄り窓口でまとめて取得 | 本籍地への郵送請求を省略 |
| 住民基本台帳ネットワーク連携 | 住所変更登記の添付省略 | 書類取得負担と費用削減 |
| 所有不動産記録証明制度 | 所有不動産の一覧的把握 | 相続登記漏れ防止と整理 |
相続登記の義務化と期限管理(3年ルールと相続人申告登記)
「知った日から3年以内」が原則
令和6年4月1日から、相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務づけられました。
遺産分割協議によって不動産を取得した場合には、その協議が成立した日から3年以内に、協議の結果に基づく登記を申請する必要があります。
そして見落とされがちなのが、この義務が施行日より前に発生した相続にも及ぶという点です。
施行日前に相続が開始していたケースでは、令和9年3月31日までが期限となる(または取得を知った日から3年のいずれか遅い日まで)ため、「祖父母の代から名義が変わっていない」というご家庭は、今まさに対応が必要な時期にあります。
正当な理由がないのに期限内に申請しない場合には、10万円以下の過料の対象となる可能性があるとされています。
すぐに遺産分割がまとまらないときの「相続人申告登記」
とはいえ、相続人の間で話し合いがまとまらない、相続人の一部と連絡が取れないなど、3年以内に登記までたどり着けない事情もあります。
そこで設けられたのが、相続人申告登記という簡易な手続きです。
これは、登記名義人について相続が開始したことと、自分がその相続人であることを法務局に申し出る手続きで、申し出をした相続人については相続登記の申請義務を履行したものとして扱われます。
戸籍等で自分が相続人であることを示せば単独で申し出ることができ、手数料もかからないため、期限が迫っている場合の「つなぎ」として有効です。
ただし、これは持分を取得したことを公示する登記ではないため、遺産分割が成立した後には、改めて所有権移転登記を申請する必要がある点に注意してください。
| 場面 | 期限の考え方 | 取るべき手続き |
|---|---|---|
| 相続の開始を知った | 知った日から3年以内 | 相続登記または相続人申告登記 |
| 遺産分割が成立した | 成立日から3年以内 | 分割内容に基づく所有権移転登記 |
| 施行日前に発生した相続 | 令和9年3月31日が目安 | 過去分の名義整理を優先 |
| 話し合いが長引きそう | 期限は延びない | まず相続人申告登記で義務を履行 |
住所等変更登記の義務化と「スマート変更登記」
令和8年4月1日から、住所・氏名の変更登記も義務に
所有者不明土地の発生原因のおよそ3割は、引っ越しなどの際に住所変更登記がされないことにあります。
そこで、令和8年4月1日からは、不動産の所有者が住所や氏名を変更した場合に、変更から2年以内に変更登記を申請することが義務づけられます。
正当な理由なく申請しない場合には、5万円以下の過料の対象となる可能性があるとされています。
相続登記の義務化と比べると見落とされやすいルールですが、親世代が高齢者施設へ入居した場合や、お子様世代がマイホームを購入して転居した場合など、身近な場面で該当します。
「不動産を持っている人は、住所が変わったら登記も変える」という新しい常識を、家族で共有しておきましょう。
申請しなくても登記が更新される「スマート変更登記」
義務化と同時に、負担を軽くするための仕組みとして「スマート変更登記」が始まります。
これは、あらかじめ不動産の所有者が法務局に生年月日等の検索用情報を申し出ておくことで、住所等が変わるたびに自分で申請しなくても、登記官が職権で変更登記を行ってくれるという制度です。
法務局が定期的に住民基本台帳ネットワークへ異動情報を照会し、変更が必要な場合には名義人本人へ確認したうえで登記手続きが行われます。
この仕組みを利用すれば変更登記の義務を果たしたことになるため、転居の多い方や、遠方の不動産を持つ方ほどメリットが大きい制度です。
結果として登記簿の氏名・住所が最新に保たれるため、将来相続人が所有不動産記録証明書を請求したときの検索精度も高まり、「一覧から漏れる不動産」を減らすことにつながります。
| 項目 | 従来の住所変更登記 | スマート変更登記 |
|---|---|---|
| 手続きのきっかけ | 所有者が都度申請 | 事前の検索用情報の申出 |
| 転居後の対応 | 物件ごとに申請が必要 | 登記官の職権で更新 |
| 義務との関係 | 2年以内の申請が必要 | 利用すれば義務を履行 |
| 相続時の効果 | 住所相違で抽出漏れの恐れ | 名寄せ精度が高まる |
所有不動産の「見える化」で土地利用の最適化を考える
まず「使っていない不動産」を洗い出す
所有不動産記録証明書によって不動産の一覧が手元に揃うと、まず確認したいのが「現在ほとんど使っていない土地や建物がどこか」という点です。
所在地と地目、利用状況、固定資産税の負担感などを照らし合わせることで、日常的に利用している不動産と遊休不動産を区別しやすくなります。
特に、お子様世代が遠方に住んでいる場合には、地図情報や航空写真と合わせて一覧を確認することで、現地に頻繁に行かなくても大まかな利用状況を把握しやすくなります。
あわせてハザードマップや都市計画情報を確認しておくと、その土地が将来どのような活用に向くのか、あるいは早めに手放したほうがよいのかという判断材料にもなります。
このように一覧化された情報を見ることが、将来の相続や整理の優先順位を考える第一歩になります。
見える化のためにそろえたい3つの資料
実務では、所有不動産記録証明書に加えて、固定資産税の課税明細書と名寄帳を組み合わせると精度が上がります。
課税明細書は毎年春に届く納税通知書に同封されており、市区町村ごとの所有不動産と評価額を確認できます。
名寄帳は市区町村が管理する固定資産課税台帳を名義人ごとにまとめたもので、私道や山林など非課税で課税明細書に載りにくい不動産まで拾える場合があります。
そして公図や地積測量図を取得すれば、隣地との位置関係や境界の状況もつかめます。
「登記のデータ」「税のデータ」「地図のデータ」の3点をそろえることが、相続不動産の見える化の王道です。

放置が生む社会的コストを知る
一方で、相続や住所変更の登記が長年放置されると、「所有者不明土地」が生じ、社会全体にさまざまな影響が出ているとされています。
政府広報オンラインが紹介する国土交通省の調査では、不動産登記簿だけでは所有者の所在が判明しない土地が全国の土地の約23%に達し、その面積は九州の面積を上回る規模とされています。
このような土地が増えると、公共事業や防災工事の用地取得が進まず、老朽化した工作物の倒壊リスクや雑草・害虫の発生など、地域の安全や景観にも悪影響が生じます。
また、所有者側にとっても、管理不全のまま放置すれば近隣への損害賠償リスクや、行政からの指導・勧告を受けるリスクを抱えることになります。
だからこそ、お子様世代が早めに所有不動産を「見える化」し、相続登記や住所変更登記を進めておくことが、ご家族と地域全体の負担を減らすことにもつながります。
| 確認したい項目 | 所有不動産の見える化で分かること | 土地利用の最適化につながる方向性 |
|---|---|---|
| 利用頻度や現況 | 遊休地や空き家の抽出 | 活用・売却・国庫帰属の検討 |
| 固定資産税等の負担 | 費用対効果の見直し | 保有継続か処分かの判断 |
| 登記名義や住所 | 未登記や住所相違の把握 | 相続登記や変更登記の促進 |
| 境界や接道の状況 | 売却しにくい要因の発見 | 測量・境界確定の事前準備 |
空き家・遊休地の選択肢と相続土地国庫帰属制度
「持ち続ける」以外の選択肢を並べて考える
利用していない土地や建物については、単に保有を続けるだけでなく、利活用や処分も選択肢として検討することが重要です。
空き地や空き家の活用策としては、賃貸や売却だけでなく、隣接地の所有者への譲渡による集約、駐車場や資材置場としての貸し出し、管理会社への委託、自治体の空き家バンクへの登録などがあります。
建物が古く再利用が難しい場合には、解体して更地にしてから売却するのか、現況のまま買い取ってもらうのかで手取り額が変わることもあります。
大切なのは、「なんとなく持ち続ける」状態を続けないことです。
保有コストと将来の資産価値を並べて比較すれば、ご家族にとっての最適解は自然と見えてきます。
相続土地国庫帰属制度という「手放す」選択肢
買い手がつかない山林や農地など、どうしても活用が難しい土地については、相続土地国庫帰属制度の利用も検討できます。
これは、相続や遺贈により取得した土地について、一定の要件を満たせば法務大臣(法務局)の承認を受けて国庫に帰属させることができる制度で、令和5年4月27日から始まりました。
申請時には土地1筆あたり14,000円の審査手数料が必要で、承認された後に負担金(原則として20万円。市街化区域内の宅地や一部の農地・森林などは面積に応じて算定)を納付すると、所有権が国に移転します。
ただし、建物が建っている土地、担保権や使用収益権が設定されている土地、境界が明らかでない土地、崖がある土地、通路など他人の利用が予定されている土地などは、申請できない、あるいは承認されない場合があります。
「不要な土地なら何でも引き取ってもらえる」制度ではないため、事前の確認が欠かせません。
売却するなら知っておきたい税の特例
相続した実家を売却する場合には、いわゆる空き家の3,000万円特別控除(被相続人の居住用財産を譲渡した場合の特別控除)を利用できることがあります。
この特例は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であることや、相続開始直前に被相続人が一人で住んでいたこと、譲渡対価が1億円以下であることなど、細かな要件が定められています。
耐震改修または取壊しを行うことが条件ですが、一定の場合には売買後に買主が行う改修等でも適用が認められる取扱いがあり、実務上使いやすくなっています。
相続人が3人以上いる場合には控除額が2,000万円に引き下げられる点や、適用期限が定められている点にも注意が必要です。
売却の時期や方法によって税額が大きく変わりますので、契約前の段階で税理士や不動産会社に相談することを強くおすすめします。
| 選択肢 | 向いているケース | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 保有して活用 | 需要のある立地・建物が健全 | 管理と修繕のコストが継続 |
| 売却する | 買い手が見込める・現金化したい | 境界確定や税の特例の確認 |
| 隣地所有者へ譲渡 | 狭小地・接道が不十分な土地 | 価格交渉と分筆・測量が必要 |
| 相続土地国庫帰属制度 | 買い手がつかない山林・原野等 | 要件審査と負担金の納付 |
お子様世代が今から準備すべき相続と不動産管理のチェックポイント
親世代と情報を共有しておく
相続が始まってから慌てないためには、親世代と情報を共有しながら、現在の不動産の状況を整理しておくことが大切です。
具体的には、不動産の所在地や地番、名義人、利用状況、固定資産税の納税通知書などの保管場所を一緒に確認しておくと、相続開始後の調査の手間を大きく減らせます。
また、権利証や登記識別情報通知、賃貸借契約書、境界確認書、測量図など、不動産に関する重要書類が散逸していないかを早めに点検しておくことも重要です。
このような情報を一覧表にまとめておけば、所有不動産記録証明書を活用する際の整理にも役立ちます。
「財産の話は切り出しにくい」と感じる方は、固定資産税の納税通知書が届く時期や、実家の修繕・片付けの話題をきっかけにすると自然に始めやすくなります。
生前にできる備え
親世代がお元気なうちにできる備えとして、まずは登記簿上の住所・氏名を最新の状態にしておくことが挙げられます。
次に、所有不動産記録証明書をご本人名義で取得し、家族で内容を確認しておけば、将来の相続財産の全体像が早い段階で共有できます。
さらに、誰にどの不動産を引き継ぐのかを明確にしておきたい場合には、遺言書の作成も有力な選択肢です。
自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、法務局で遺言書を保管してもらえるため、紛失や改ざんの心配が減り、家庭裁判所の検認も不要になります。
エンディングノートに不動産の情報や管理を委託している業者の連絡先を書き添えておくだけでも、残されたご家族の負担は大きく変わります。
請求前に整理しておきたいこと
所有不動産記録証明制度は、相続人などが被相続人名義の不動産を一覧で把握できるようにするための制度で、令和8年2月2日から運用が始まっています。
法務局に請求することで、登記簿上の被相続人名義の不動産が全国分まとめて証明書として交付され、該当不動産がない場合には、その旨の証明書が交付されます。
請求に当たっては、被相続人の氏名や住所などの検索条件を指定し、相続人であることを示す戸籍関係書類などが必要になります。
また、手数料は検索条件ごとに加算され、書面請求の場合は検索条件1件・1通あたり1,600円ですので、複数回の請求とならないよう、必要な情報を事前に整理しておくことが望ましいです。
旧姓や旧住所も含めてどの条件で検索するかを決めてから請求することが、費用と手間を抑える最大のコツです。
専門家への相談タイミング
相続登記の申請義務化が進む中で、将来の負担やトラブルを軽減するには、所有不動産記録証明書の取得だけに頼らず、日頃から情報を整えておくことが重要です。
例えば、相続登記の申請や名義整理を行う際には、不動産登記の内容や必要書類、費用の見通しについて、司法書士などの専門家へ早い段階で相談しておくと安心です。
境界が不明確な土地は土地家屋調査士、相続税や譲渡所得税の試算は税理士、遺産分割で争いが生じている場合は弁護士と、相談先を使い分けることも効果的です。
さらに、手数料や制度内容は改定されることがありますので、最新の情報を法務省・法務局の案内で確認しながら進めることが大切です。
このように、こまめな情報整理と専門家への相談を組み合わせることで、お子様世代の心身の負担を抑えつつ、円滑な相続と不動産管理につなげることができます。
- 親世代の登記簿上の住所・氏名が現在の情報と一致しているか確認した
- 固定資産税の納税通知書・課税明細書の保管場所を共有した
- 権利証・登記識別情報通知・測量図・賃貸借契約書の有無を点検した
- 所有不動産の一覧表(所在地・地番・利用状況・名義)を作成した
- 使っていない土地・空き家の今後の方針を家族で話し合った
- 相続登記が未了の不動産がないか、過去の相続まで遡って確認した
- 遺言書やエンディングノートの必要性を検討した
- 司法書士・税理士など相談できる専門家の窓口を把握した
| 確認すべき情報 | 主な確認方法 | 準備のポイント |
|---|---|---|
| 不動産の所在地・名義 | 固定資産税通知書・登記事項証明書 | 親世代と一覧表を作成 |
| 非課税の私道・山林 | 市区町村の名寄帳 | 市区町村ごとに取得 |
| 所有不動産記録証明書 | 法務局への請求手続 | 必要書類と費用を事前整理 |
| 相続登記や名義整理 | 司法書士等への相談 | 早期相談で手続負担軽減 |
よくあるご質問(FAQ)
- 所有不動産記録証明制度はいつから利用できますか?
- 令和8年(2026年)2月2日から運用が始まっています。全国の法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)の窓口のほか、郵送やオンラインでも請求できます。
- 親が元気なうちに、子が代わりに請求できますか?
- お子様が単独で請求することはできません。請求できるのは名義人本人、その相続人その他の一般承継人、およびこれらの方の代理人です。ご親族が生前に手続きする場合は、委任状を用意して代理人として請求する形になります。
- 証明書があれば、相続する不動産をすべて把握できますか?
- すべてとは限りません。検索条件として指定した氏名・住所が登記簿の記載と一致しない不動産や、未登記建物は抽出されないことがあります。固定資産税の課税明細書や名寄帳とあわせて確認すると精度が高まります。
- 相続登記をしないまま放置するとどうなりますか?
- 令和6年4月1日から相続登記は義務化されており、正当な理由なく期限内に申請しないと10万円以下の過料の対象となる可能性があります。加えて、世代が進むほど相続人が増えて話し合いが難航し、売却や活用ができなくなるという実害が生じます。
- 遺産分割の話し合いが3年以内にまとまりそうにありません。
- まずは相続人申告登記を行うことで、申し出をした相続人については申請義務を履行したものとして扱われます。手数料もかからず単独で申し出できますので、期限が近い場合の有効な手段です。分割成立後に改めて相続登記が必要になります。
- 使い道のない山林を引き取ってもらえますか?
- 相続土地国庫帰属制度の利用が考えられますが、建物がある土地や境界が明らかでない土地など、承認されない類型が定められています。審査手数料と負担金も必要ですので、まずは要件に当てはまるかを確認するところから始めましょう。
- 手続きを自分で進めるか、専門家に頼むか迷っています。
- 不動産が1件で相続人も少ない場合はご自身での申請も可能です。一方、不動産が複数ある、相続が数世代にわたっている、遠方の不動産がある、といったケースでは、司法書士へ依頼したほうが結果的に時間も費用も抑えられることが多くあります。
まとめ
所有不動産記録証明制度とデジタル情報の活用により、相続時の情報集めや手続きの負担を大きく減らすことができます。
相続前から親御様の不動産を一覧で「見える化」しておくことで、空き地・空き家の活用や処分、相続土地国庫帰属制度の検討もしやすくなります。
あわせて、相続登記の3年ルールと、令和8年4月1日から始まる住所等変更登記の義務化という2つの期限を意識しておけば、将来の過料やトラブルのリスクも抑えられます。
「うちの場合はどう進めれば良いか」「どこから手を付ければ良いか」と迷われた時は、ぜひ一度当社へご相談ください。
お子様世代の不安に寄り添い、将来のトラブルを防ぐ相続と不動産管理の進め方を、丁寧にサポートいたします。
- 所有不動産記録証明制度は令和8年2月2日運用開始。全国の不動産を一覧で証明できる
- 請求できるのは本人・相続人等・代理人。手数料は検索条件1件1通あたり1,470〜1,600円
- 相続登記は「知った日から3年以内」。間に合わないときは相続人申告登記を活用
- 令和8年4月1日からは住所等変更登記も義務化。スマート変更登記で負担を軽減できる
- 見える化した一覧をもとに、活用・売却・国庫帰属を比較して土地利用を最適化する
【参考・出典】
・政府広報オンライン「不動産の相続登記義務化!過去の相続分は?所有不動産を一覧的にリスト化する新制度も開始!」記事はこちら
・政府広報オンライン「所有者不明土地 相続や住所等の変更の未登記により全国で発生」記事はこちら
・法務省・法務局(所有不動産記録証明制度、相続登記の申請義務化、相続土地国庫帰属制度の各案内)法務局ホームページ
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。手数料や制度の運用は改定される場合がありますので、実際の手続きに際しては最新の公式情報をご確認いただくか、専門家にご相談ください。

